小説途中 夏風邪
私は自分を理解してほしいくせにそれをわざと隠す。
最初から諦めているからだ。
下手に明かしたところで他人の関心を集めたいだけの哀れな人間として軽く流されるか、私を精神の病んだ煩わしい人間として同情の表情を見せたと同時に縁を切ることを決心する姿勢が容易に想像できるからだ。その中でも1番タチが悪いのは、見当違いの説教を垂れ理解したふりをされることである。
そういう人からは理解しようと努力している手前を評価してくれという思いがひしひしと伝わるので億劫だった。
私の人から得る印象は毎回違う。
ある人は明るく天真爛漫で鬱の気配を感じないと言った。ある人は病んで今にも死にそうと言った。またある人はミステリアスでプライベートを喋りたがらないと言う。彼女が唯一心を許してる一人の男は彼女のことを他人に無関心で自分にしか興味がないのだと言った。
その男は生きようと必死だった。
常にもがいていた。
彼は誰よりも人間味があって
偏屈だけど素直で憎めない人だった。
心地が良かった。
ーー
僕は彼女が大嫌いである。
彼女に親しい友人はいなかった。彼女は自分が優位でいないと気に食わず、平気な顔で人の心を支配しようとするような人間だった。
無邪気で気ままで何も考えていないのかそれは全て彼女の計算のうちなのか
その時の気分で人を振り回した。
全てが矛盾していた。
彼女は突然僕の心の中に侵入して僕を異常なほど求める素振りをしたとおもえば、今度はすっかり興味が無くなったのかどうでもいいと突きはなした。
それはある蒸し暑い東京の夏のことだった。