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ぼやき・映画・小説

夏 日曜日 カップル

【フィクション】

 

熱帯魚を飼いたいけど絶対すぐ殺しちゃうと踏みとどまるふたり

今日はあんまんの気分と言って普段食べないあんまんを買って、わけっこするけど多い方を食べなよと譲り合って何故か喧嘩になってしまうふたり

昼間から屯している中年達をみて、せめてああはならないようにと決心するふたり

映画を観ていて、気付いたらお互い泣いててそれにドン引きし合うふたり

慣れない本を読んでシェアしたいふたり

つまらない番組にケチつけるふたり

 

あんなに一緒にいることが何よりも幸せで

ささいな共通点が一番嬉しかったりした

 

そんな日はもう思い出せなくなっていた

 

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「ただいま」

はぁ、と溜め息を付いて疲れ果てたような面持ちでスーツのジャケットをソファに雑に掛ける彼

6時に仕事を終わらせ、シャワーも浴びてソファーに持たれるような姿勢で床に座ってる私をあえて気まずくさせてるようなその感じに無性に腹が立つ

 

「ご飯、食べてきたの?そういう時連絡してよって言ったじゃん」

「ごめん、上司との急なやつだったんだよ」

「連絡一つくらい返せるでしょ」

「俺人といる時は携帯あんまみないんだよ知ってるでしょ」

「ご飯いるいらないくらいしてよ」

「ごめん」

 

「…」

「…」

 

「部屋いい匂いする!何作ってくれてたの?」

上司との断って家帰ればよかったなとか

私が不機嫌なのを珍しく察したようで、会話を付け足してくる彼

それを無視してしまう私

 

彼は話しかけるのをやめ、スマホ画面に目を向ける

 

 

テレビを消すとトレーナー、スッピン、メガネ姿の自分の姿が黒い画面に映った

 

「…」

 

これは酷い。

これは冷める。

 

急に自分がこの姿でいるのが恥ずかしくなる

画面に映る自分に女性としての終わりを感じてしまう

 

これがもう当たり前になってしまってるんだ。

 

少し恥ずかしくなって、前髪を指で整える

胡座をかいている脚も、ソファの下に下ろす

 

付き合って6年 同棲して4年目

月日の経過と慣れは怖い

まあきっと、向こうも今更私が色気付いた所で気付きもしないだろう

 

「…」

気分がざらつき、不穏な空気が流れるこの部屋で

普通に話しかけようとしても何も出てこない

 

さっき、普通に話せばよかったものを…

 

仕事で疲れてたよねきっと

それに、私が怒っている問題は、どうすることもできない

職場の人間関係など様々な外部要因もあるのだ

仕方のないことだ

分かっているのについカッとなってしまう

 

あの頃私達、何話してた?

 

意識しないどうでもいい会話

そんなのばかりだったから

今更それを思い出せっていっても思い出せるはずない

 

ああでも何か、寂しくなってきた。

 

2人同じベッドだけど、今日もまた違う方向だ

弱冷房の、暑さで寝られないような部屋なのに

私は毛布をかぶり、眠りに就こうとする

 

明日は日曜日だ、

付き合い始めたときに、日曜日は2人で遊ぶと決めた日からずっと

なんだかんだ日曜日はお互い予定を立てないので

凄いことに6年間、日曜日だけは

いつも一緒にいる

 

そして、なんだかんだいつも日曜日は

仲が良い2人なのだ

 

久しぶりにきちんとお洒落しよう。

期間限定公開の映画を見た後は、

またその感想なんかを公園でしよう。

暑いかな

 

お昼はコンビニでいっかな。

 

 

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身支度をしている僕たちの部屋に着信音が響き渡る

嫌な予感がした

 

そして、彼女もその着信音と同時に察したみたいだ

 

日曜日 映画

 

「もしもし」

 

彼女手の動きを止め、静かにソファに腰掛ける

電話の向こうからかすかに聞こえる声に、耳をそばだてるように、覚悟したように静かに座っている

 

「はい…はい、そのことでしたら日下部さんに…そうですか、そしたら今から向かいますね」

 

はあ、と

深くため息を吐く彼女

「ごめん呼ばれた!午後には帰れるよ」

「映画、午前じゃん」

「ごめんて」

「頑張って」

「仕事なんだからしょうがないだろ」

「しょうがないね」

「何だよその言い方」

「私、一人でも行くから」

「はあ」

「なにため息?」

「うるさいな…」

 

僕に背を向けて話し続け、

小競り合いをした後はわざと明るい雰囲気を身にまとって

それを僕に分かるようにして

わざとらしく「これどう?」と着ているワンピースを笑顔で見せてきたりして

準備を再開する

 

「…」

 

「当てつけみたいなことするなよ、自分は映画の字幕入れをする勤務地関係ない時間関係ない時間に囚われない人間に囚われないような仕事で僕は普通のサラリーマンだよ、分かれとは言わないけどさ少しは理解する姿勢くらい見せたらどうだよ」

 

「なにそれ、そういう仕事選んだのはそっちじゃん」

 

「僕には生活があるんだよ」

 

「私にだってあるよ!」

 

日曜日 午前出社

 

今週、僕たちは初めて別々の日曜日を過ごす

これは僕たちにとって、終わりを助長する何ものでもなかった

 

日曜日は僕にとって大事な日だった

ここ最近ずっと空気の悪い僕たちも

日曜日にはどうにか修復して、今までやってきた

 

本当は僕だって仕事なんかほっといて、彼女と遊びたい

 

本音はこうだが、彼女の態度に僕も苛立ちを覚え反発するが、

最終的にはもうどうでも良くなってしまう

 

仕事なんだからしょうがない

生活していくためだからしょうがない

これが社会人として基本だから

お前は何もかも甘いし自分勝手なんだよ

生きていくってこういうことなんだよ

これが普通なんだよ

 

テンプレート化している自分の言い訳に

我ながら嫌気が差す

 

こんな人間と一緒にいるのはもう嫌だろうか

社会に囚われた人間なんて嫌だろうか

 

僕はスーツに着替え、革靴を履く

ホームで電車を待ち、平日とは打って変わったガラガラの箱に揺られ

職場につく

 

ふと、スマホのアルバムを開き、彼女と僕の写真を眺める

もう、彼女の心からの笑顔はずっと見ていない

多分これからも僕たちはこのままだろう

 

ああ、もういいや

 

何のために、何が良くって僕はこんな日々を送ってるんだろう

 

もう全てどうでもいい

 

汗が滲んだ顔を拭い、僕は会社の自動ドアを通り抜ける

 

「おはようございます!」

「おはよう、ごめんね日曜日なのに」

「全然大丈夫です!あ、資料ですよね…」

 

 

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うん、たしかに

絶対彼は悪くない

 

でも私だってすごく楽しみにしていたんだ

日曜日は、私達を繋げてくれるそんな時間だった

私達の関係は

かろうじて繋がっている、今切れてもおかしくない古びた糸のようだった

 

少しは寂しい素振りをみせたらどうだ

少しは行きたくないとか言って駄々でもこねてみたらどうだ

何故、平気な顔で予定ができたなんて言えるんだ

 

面倒臭いかもしれないが、そういう態度を少しだけ見せてくれたら

それだけでいいのに

 

こんな我儘ばっかりで駄目だな私

もう彼もこんなことに付き合ってはいられないはずだ

 

1人取り残された部屋で悶々とする

出かける気にはならないが、折角のチケットが勿体ないので重い足取りで外に出る

 

「暑…」

初夏を向かえ日光に照りつけられたアスファルトの暑さでくらくらしてくる

こんなに暑いのに、スーツ着て、日曜日に出社したと思うと今更不憫で仕方がない

 

部屋、どうするんだろう

いや、まだ別れてないけど…

契約したのは私か、じゃあ彼が出ていくのか?

 

さすがに喧嘩で終わるのはよそう

映画を見て、私はデパートの地下に入ってスイーツの類を探した

 

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 「ただいま」

「おかえり」

 

 

「映画、行ったの?」

「行ったよ」

 

「どうだった?」

「良かったよ」

 

正直、集中してみることはできなかったけどね、と笑いながら付け足す彼女

 

「あ!これ、美味しいって有名の中華料理買ったんだ。でももしかしてもうお昼食べた?今15時だし」

 

「まだだよ、実は俺もケーキ買ってきた」

 

「これ好きなやつ!」

 

「外で一緒に食べよっか」

 

 

家から徒歩3分に、小さな公園がある。

少し汚れたベンチに座って

こんな猛暑の中で、デパートで買った食材を食べる

 

「やっぱ美味しいこれ」

満足そうにケーキを食べる彼女

 

「今はどんな映画やってるの?この間も遅くまでやってたけど」

「今はサスペンス系だよ、私まだまだボキャブラリー少ないし、字幕の付け方すごく下手ってこの前も言われちゃって、もっとマシにならないのかって言われて今はもうずっとやり直し」

「そっか、かっこいいよ、でも体壊すなよ」

「ありがと」

「仕事は順調?」

「俺はまあ、ぼちぼちかな、でも一つ仕事任されたから頑張りたいんだ」

「すごいじゃん!」

 

普段だったら触れもしない仕事の話をした

それから僕たちは公園の日陰で僕たちは他愛もない話をした

 

久しぶりの会話は止まらなかった

 

「あの熱帯魚屋さん、絶対お店経営する気ないもん」

「俺達のこと追い出したがってたもんね」

 

「魚、飼っても良かったかな」

「たしかに、私ずっと家いるもんね」

 

気付かないうちに、懐かしい話とか、過去の話るする僕たちだったが、徐々に口数が減っていく

 

「…」

「…」

 

「えっと、多分、あれだね、私達…」

 

「そうだね」