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ぼやき・映画・小説

終電前、20分

【フィクション】

 

上手くいかないよと首を横に振り続ける彼
辛いけど別れようと言う彼


私たちは、どこから間違えたんだろう
いつから毎日、言い争ってたんだろう

 

「やだ、一緒にいよう、お互い好きならそれでいいじゃん」


彼の顔を覗き込むように、最後の説得をする23時30分。

そろそろ終電の時間だ。

 

先ほどまでの怒鳴り合いの喧嘩は鎮まり、静かに考えている。
たくさん泣いたから、今は少し疲れて冷静だ。

 

どうせこうなる運命だったから諦めよう
でもまだ巻き返しつくな
小さな争いから別れに発展するくらいもうお互い切羽詰まってたんだ
今べつに別れる必要はないのかも
愛想つかしてからでいいんじゃないかな

 

「…」
「…」

 

頭の中で色々な考えが過る
多分、彼もそんな感じに考えを巡らせているはずだ

 

 

「違うんだよ」
"もう遅いんだよ"そうやって彼は大粒の涙を流した。
私はまた、彼につられて涙が溢れ出て来る

 

自分に余裕がなかった私は
彼が自分の元離れていく気がして、相手の成長が怖くて、

居なくならないかどうかを試すようにいつも強く当たってしまっていた
一緒に切磋琢磨前を向いた方が何倍もいいのに
そんなことは分かってたのに
相手が限界を感じるまで
悪循環を維持しすぎていた

 

何かに期待しすぎないようにすると、もっと期待してしまう
嫉妬しないようにすると嫉妬してしまう

 

そしたらやがて全てが大きくこんがらがって
からまって
解けなくなってしまった

 

こんな感じで、私は不器用にしか生きられない

 

もし私がどこかの成功者のような器だったら
執拗に傷つけるような
勝手に傷付くような 
毎日焦燥に駆られるような
そんなこともないのかな

 

訳の分からない事言ってる私の前に
同じように訳の分からない事を言う人が現れた
同じ魂を持って、引きつけあった
彼とは本当に全てが合った
もしかしたら、だからこそぶつかり合うのかもしれない
お互い何か譲れないのかもしれない

 

ほんと、あなただけだったな
でも、ずっと苦しかった
多分、彼もずっと苦しかった

 

11時40分

「ごめん、でも私、本当に大好きだった」
「今更そんなずるいよ、俺だってそんな…決まってるでしょ」
「うん」
「何が駄目で、こんな好きなのに別れなきゃなんだろ」
「…お互い精一杯だったんだね」

 

もう縋るより、

今まで意固地になってた私が

言えなかったことを伝えよう

 

また再開した時は
目の前が、嬉しくて涙でぼやけたときは
遥かに複雑で、偶然的な
印象深い
自分でなんかどうすることもできない
そんな感情がきっと溢れ出てしょうがない

 

そのとき多分私たちは
またうまくやれる

 

嫉妬とか焦燥といった感情は多分一生ついてくるものだから、
その感情を捨てることは諦めて
飼い慣らせるまで、
もう少し時間が必要だ

 

「じゃあね」
「うん、元気でね」

 

11時50分
喧嘩が始まってから3時間

3時間で、全て終わった

お互い涙は枯れていた
お互いのぱんぱんに腫れた目を見て
思わず吹き出してしまう

 

彼がエレベーターのボタンを押す
私の部屋は5階にあって、
エレベーターは1階にある

 

もっと一緒にいたい

 

それなのに、
5階に着いたベルが鳴るのは一瞬だった

 

ドアがあいて、
そこからしばらく沈黙で

青い月の光が差すこの静かな場所で
お互いの顔を見て
手を握って、これでもかというくらい強く抱きしめ合う

 

笑顔で別れようとしたけど
視界はまたぼやけてしまう
辛すぎるから無理そうだ

エレベーターに乗った彼は私の方に振り返らない

鼻をすする音がした

 

私は彼の背中を最後まで見送った

 

でもこのバイバイは間違ってない
こんな好きになった人なら、忘れない
私たちならまたきっと、

 

もっとちゃんと大人になって
また会えばいい

 

その時もう遅かったのなら
また来世会えばいい

次また違う人になって会えばいい

 

偶然、同じタイミング
近くで生まれて
0から始めたらいい