小説途中 タイトル未定
青森県平内町。
今やそこにいた過去は褪せて滅多に思い出すことのない場所であるが、そこでの生活は派手ではないものの、つつましやかに暮らすことは許され、牧歌的ともいえる日々であった。
二十七年前の冬、役者を目指し学生時代を途中で放棄した私だが、一向に売れる気配のなかった私は様々なアルバイトを掛け持ちし、友人や後輩の住まいを点々としていたが、徐々に宿泊先も制限されていった挙句財産は底を尽き、誰にも言わず都会から逃げるようにこの在地に出向いたのである。
この地には縁もゆかりも無かった。ただ何の考えも無しにここにやってきたわけだが、その時私には先行きの不安を考えているほどの余裕はなかった。残りわずかな財産は繁華街からほど近い、ツタの這った古びた民宿に泊まることで精一杯だった。この民宿を経営している老夫婦は生地も分からず一門無しの二十歳に満たない痩せた青年を大変良くしてくれた。
この町を囲っている魚個、北方の陸奥湾に夏泊半島が突出し、美しい海と山に囲まれた自然豊かな街に都会に揉まれ疲弊しきっていた私は一時の休息を求めたのだ。
暫くはここにいよう
漁業の盛んな町だったので、民宿にいる旦那の伝で町役場の近くの小さな漁港で働くことになった。
続